物理学とは何だろうか〈下〉
- 作者: 朝永振一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1979/11/20
- メディア: 新書
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上巻を読んでエントロピー概念が十分に把握できなかった、と前に書いた。
下巻は、正にそこに内容を絞っている。熱力学と、それと深い関係性があるエントロピーに関する記述で占められている。
原子論的な考え方が現れ初めた当時、熱エネルギーは、どうやら物質の分子の飛び交うエネルギーであり、どうやらそれはエントロピーが増大する方向と結び付けられている、ということがわかり始めていた、それに対しボルツマンやマックスウェルは、確率の考え方を援用しつつ数学的手段を用いて、熱力学を確固たる物理学の法則まで築き上げるのに貢献した。というのが大ざっぱな内容である。
下巻のほとんどは、熱力学の数学的定義に関する分析が述べられている。数式はあまり出てこず、それほど難解ではないのだが、多少クドイ感があった。
「科学と文明」と題された付録は、講演の書き下しである。本来はこの主題を本書に入れる予定だった。だが、朝永先生の急逝により実現しなかった。これは科学に対する哲学的思考であり、単なる専門家に堕しない、先生の力量を垣間見せてくれる。この主題が未完に終わってしまったことは惜しまれる。