不安の概念 (岩波文庫)

不安の概念 (岩波文庫)

不安の概念 (岩波文庫)

最初のほうは異様に理解が困難であった。
でも、その後の方はある程度文献読み込んでいる者であったら、そこそこ理解できるのでは。

キルケゴールの代表作といったら、何といっても、「死に至る病」と本書であるが、どちらかというと本書の方が哲学論文調である感じがする。前者が神キリストの現前における独白としたら、後者はそれの理論的バックアップとでもいうような。死に〜は読んでて非常に心訴えるものがあり、キルケゴールの心情を身近に感じることができる。一方、不安の〜は、ケルケゴールの哲学的、思想的位置づけ、あるいはキリスト教というものに対する理解が深まり、非常に勉強になった感がある。

ハイデガーが唯一重視しているキルケゴールの書は本書だそうだ。彼はこれを基礎の一つとして独自の理論を発展させたということらしい。
要は、キリケゴールが存在概念を神に還元できるものとするのに対して、ハイデガーはそれは還元不可能で存在そのものを理論的に位置づける、とでもいうことかな。
本書の中で、瞬間とか飛躍とかの神学的概念を哲学的理論の中で使用していることに対しては、現代のわれわれにとってみれば、ちょっと雑すぎるというか素朴というか、ある意味理論の放棄というか思考の放棄というように思われる。
でも、哲学という大きな枠組みの中で、いろいろな視点(実存概念、キリスト教、存在、反復・・)を投げかけてくれるという意味で、キルケゴールは大きな位置を占めていることは間違いない。単なる蒙昧なキリスト原理主義による自己弁護ではない。読んでよかった。